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名古屋地方裁判所 昭和33年(行)15号 判決

原告 村瀬久義

被告 名古屋国税局長

訴訟代理人 林倫正 外五名

主文

被告が昭和三十三年二月三日付でなした原告に対する昭和三十一年度分所得税の更正処分に対する審査決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告の主張

(請求原因)

一、原告は豆腐、油揚げ類の製造販売業を営む者であるところ、津島税務署長は原告に対し、原告の昭和三十一年分の所得金額を六十三万四千四百円とし、これに基く所得税額を九万二千四百円とする更正を行つた。原告はこれに不服であつたので同税務署長に再調査の請求をしたが棄却されたので被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和三十三年二月三日付で津島税務署長の右再調査の決定には誤りがないとの理由にて原告の審査請求を棄却するとの決定を行い、この決定通知書は同日頃原告において受領した。

二、然しながら、原告の後記計算によれば、原告の昭和三十一年分の所得金額は四十万二十七円、所得税額は二万五百円であり、右更正処分及び審査の決定は原告の所得金額等を過大に認定した違法がある。よつて右審査決定の取消を求める。

(原告の主張)

原告の昭和三十一年度における前記営業による総収入金額及び総支出金額は次のとおりである。

(1)  総収入金額 一、二八四、七五〇円

(2)  総支出金額   八八四、七二三円

右内訳

(イ) 材料費(豆類)

仕入月日   品目 数量     金額

一月五日   豆  一五俵  四六、五〇〇円

同      同  同    四八、七五〇円

三月六日   同  同    五〇、二五〇円

五月一日   同  同    同

五月一七日  豆粉 三〇袋  二四、〇〇〇円

六月一三日  豆  五俵   一八、〇〇〇円

七月一七日  上豆 二俵   一〇、六七〇円

八月一九日  豆粉 二〇袋  一六、四〇〇円

八月二三日  同  三〇袋  二五、五〇〇円

一〇月四日  同  同    同

同      上豆 五俵   二二、六六〇円

一〇月一三日 豆  一八俵  六三、九〇〇円

同      同  二俵    七、九〇〇円

一〇月二四日 豆粉 三〇袋  二五、五〇〇円

一〇月二七日 豆  一〇俵  三五、七〇〇円

一一月一九日 同  四、五俵 一七、八七〇円

(ロ) 年間諸経費

イ 油(六石七斗五升)    一八二、二五〇円

ロ 燃料費(薪、おがくず等) 一〇一、一〇〇円

ハ 動力費(水汲等)       八、三二三円

ニ にがり           一四、五〇〇円

ホ あわけし          三二、〇〇〇円

ヘ 雑費            四二、四〇〇円

右総収入金額より総支出金額を差引けば四十万二十七円となり、これが原告の総所得金額である。しかして、利益率(総所得金額の総支出金額に対する割合)は四割強となり、この種の営業の利益率としては極めて妥当なものである。なお、原告には右営業による所得以外になんらの所得もなかつた。

第三、被告の答弁及び主張

(答弁)

一、原告の請求原因第一項の事実は認める。

二、本件審査決定が違法であるとの原告の主張は争う。

(被告の主張)

一、原告の昭和三十一年分の所得金額の算定内容は次のとおりである。

(一) 総収入金額 二、六七一、九七〇円

内訳

1 売上金額   二、六一一、八六五円

2 雑収入金額     六〇、一〇五円

(二) 総支出金額 一、七三六、六〇〇円

内訳

1 売上原価   一、五三九、六〇〇円

2 必要経費     一九六、七〇四円

イ 公租公課     六二、三〇〇円

事業税      四二、二三〇円

固定資産税     九、一九〇円

自転車税        二〇〇円

組合費      一一、四六〇円

ロ 電力料       八、三二三円

ハ 電灯料      一三、五三三円

ニ 通信費       六、七九八円

ホ 消耗品費     三三、六〇〇円

包装紙       三、六〇〇円

布        一五、〇〇〇円

油揚のさな    一五、〇〇〇円

ヘ 修繕費      五〇、四〇〇円

自転車修理代   一二、〇〇〇円

ウス修繕      六、〇〇〇円

ウス目立て     九、六〇〇円

バケツ、オケ修理  一、五〇〇円

鑵         三、六〇〇円

油揚箱       二、五〇〇円

モーター、ポンプ修理

六、二〇〇円

螢光灯       九、〇〇〇円

ト 雑費        六、〇〇〇円

チ 減価償却費    一五、七五〇円

(三) 総所得金額((一)―(二)) 九三五、六六六円

二、所得金額の算出方法について

所得税法によると事業所得の算出方法は同法第九条第一項第四号所定の収支計算によるのが原則であるが、この計算方法により適確な所得金額を把握するためには、その前提として収入支出を適正明確に記帳した諸帳簿が整備され、且つその裏付となるべき原始記録の保存がなされていなければならない。然るに原告の本件係争年度の営業については、諸帳簿の記帳及び原始記録の保存が全然なされていなかつたため、被告はやむなく原告の取引先の調査結果及び原告提出の資料並びに原告の申立等に基き、原告の所得金額を算定したのである。

三、収入金額の算定方法について

原告の係争年度の売上金額については、前記のとおり正確な帳簿及び確実な資料の保存がなかつたため、売上金額を直接に算定する方法がなかつたので、原告の営業品目たる豆腐及び油揚げを製造する際の副産物であるおからの係争年間における総生産量より主要原料たる大豆の総使用量を算定し、大豆使用量より豆腐及び油揚げの総製造量を算定した上、これに各単価を乗じて総収入金額を推算した。

(一) おからの総生産量 四、七一四貫

(販売先別の内訳)

伊藤牧場売り        三、三〇〇貫

店頭売り          一、四一四貫

(二) 大豆の総使用量 一一、七八五升

(内訳)

豆腐製造に使用する量    八、二四九升

油揚げ製造に使用する量   三、五三六升

大豆一升からおから四百匁がとれる。従つて四、七一四貫のおからは大豆一一、七八五升から生産される。即ち、

4714(貫)÷0.4(貫)/1(升)=11785(升)…………大豆総量

原告方では豆腐と油揚げの製造に使用する大豆の量は七対三である。従つて、

11785×7/10=8294(升)…………豆腐に使用

11785×3/10=3536(升)…………油揚げに使用

(三) 豆腐及び油揚げの販売量

(イ)  原告方では豆腐一釜に大豆六升を、油揚げ一釜に大豆三、二升を使用する。

(ロ)  大豆一升から豆腐は平均九、四丁、油揚げは平均八十三枚できる。

(ハ)  豆腐一釜につき二、三丁の、油揚げ一釜につき約二十枚の残品及びこわれ等が出る。

従つて、係争年間中の豆腐及び油揚げの総販売量は次のとおりとなる。

8249÷6=1375(釜)……………豆腐の釜数

3536÷3.2=1105(釜)……………油揚げの釜数

25×1375=3438(丁)……………豆腐の残品及びこわれ

20×1105=22100(枚)…………油揚げのこわれ

(1) 豆腐の販売量   七四、一〇二丁

94×8249-3438=74102

(2) 油揚げの販売量 二七一、三八八枚

20×1105-22100=271388

なお、残品、こわれ等は夏場は捨てるが、冬場はひりようず等に再生して販売する。然しその区分が不明であるため原告に有利に解して、全部計上しなかつた。

(四) 収入金額の計算

(1) 豆腐の売上金額               一、三六三、四八〇円

(イ) 豆腐及び油揚げの卸売と小売の割合は四対六である。

(ロ) 豆腐一丁の売価は卸売十六円、小売二十円である。

従つて、

74102×4/10=29640(丁)………………卸売数量

74102×6/10=44462(丁)………………小売数量

16×29640=474240(円)…………………卸売金額

20×44462=889240(円)…………………小売金額

474240+889240=1363480(円)…………合計売上金額

(2) 油揚げの売上金額              一、二四八、三八五円

(イ) 油揚げ一枚の売価は卸売四円、小売五円である。従つて、

271388×4/10=108555(枚)………………卸売数量

271388×6/10=162833(枚)………………小売数量

4×108555=434220(円)……………………卸売金額

5×162833=814165(円)……………………小売金額

434220+814165=1248385(円)…………合計売上金額

(3) 雑収入金額                    六〇、一〇五円

おからは一貫につき十五円で売られるが、店頭売りの一部(数量不明のため五十パーセントと推定)は無料サービスされるため、その分を除外した。従つて、

15×3300=49500(円)……………………伊藤牧場売り

15×(1414-1414×1/2)=10605(円)……店頭売り

(4) 総収入金額((一)、(二)、(三)の合計) 二、六七一、九七〇円

四、売上原価の算定方法について

(1) 豆腐の売上原価    七一六、三七五円

一釜あたりの売上原価

(イ)  大豆(屑豆の分も含む) 四五六円

(ロ)  燃料           四五円

(ハ)  あわけし         一〇円

(ニ)  にがり          一〇円

合計                五二一円

521×1375=716375(円)……………年間売上原価

(2) 油揚げの売上原価   八二三、二二五円

一釜あたりの売上原価

(イ)  大豆(屑豆の分を含む) 二四三円

(ロ)  油           四〇五円

(ハ)  燃料           八七円

(ニ)  あわけし          五円

(ホ)  にがり           五円

合計                七四五円

745×1105=823225(円)……………年間売上原価

(3) 売上原価総計((1)+(2)) 一、五三九、六〇〇円

五、以上のとおり、被告の認定によれば原告の本件係争年度中の総所得金額は九十三万五千六百六十六円であるので、この範囲内でなされた原更正処分及び原告の審査請求を棄却した被告の審査決定にはなんら違法がなく、原告の請求は失当である。

第四、証拠〈省略〉

理由

一、津島税務署長が原告に対し、原告の昭和三十一年分所得金額を六十三万四千四百円とし、その所得税額を九万二千四百円とする更正処分を行い、原告が同税務署長に右更正処分の再調査の請求をしたが棄却され、更に原告が被告に対して審査の請求をしたところ、被告が昭和三十三年二月三日付で右審査請求を棄却する旨の決定を行つたこと、原告は豆腐及び油揚げの製造販売業を営むもので、原告の右係争年度における所得が右営業による事業所得のみであつたことは、いずれも当事者間に争がない。

二、原告村瀬久義本人尋問の結果によると、原告は本件係争年度における右営業に関し、収入及び支出を記帳した帳簿類を全く備えておらず、又各個の取引について作成された各種の原始記録も保存していなかつたことが認められる。従つて、被告が原告の取引先に対する調査の結果や原告の申立及び提出資料等に基いて原告の本件係争年度の所得金額を推計したのは妥当な措置と云うことができる。

ところで、津島税務署長が本件更正処分及び再調査の決定をなす際に、如何なる方法で原告の所得金額を算定したかは不明であるが、被告が本件審査決定をなすにあたつて行つた原告の所得金額の算定が妥当なものであつて、原更正処分の所得金額が右算定額の範囲内であるとすれば、原告の審査請求を棄却した本件審査決定には違法がないと云わねばならない。そこで、被告主張にかかる原告の所得金額の算定について、その適否を以下に判断することとする。

三、総収入金額について

(一)  豆腐及び油揚げの生産量について

前記の如く原告は自家製造にかかる豆腐及び油揚げを販売して専ら収益をあげている者であるから、原告の事業所得金額を推計するために、先ず本件係争年度中の豆腐及び油揚げの生産量を推定した被告主張の方法は妥当と考えられる。

被告は、豆腐及び油揚げの副産物たるおからの生産量より加工に用いた大豆の量が逆算できるので、これにより豆腐及び油揚げの生産量を算定することができるとし、原告が本件係争年間に生産したおからの総量より逆算すれば原告が豆腐及び油揚げの製造に使用した大豆の総量は一万一千七百八十五升となると主張する。これに対し原告は、本件係争年間に仕入れた大豆等の原料は、大豆百六、五俵、豆粉百四十袋にすぎないと主張するのである。

いずれも成立に争のない甲第一、二号によると、原告は本件係争年間に訴外油勘商店から六十瓩入大豆九十五俵、八十瓩入大豆六俵、豆腐粉二十袋を、訴外水野誉十郎商店から八十瓩入大豆五俵、豆腐粉百二十袋(後記の如く全部で大豆六千九百四十二升に相当する)を、それぞれ購入したことが認められる。しかして原告は本人尋問において、右両商店以外から大豆等の原料を仕入れたことはないと供述する。特別の事情のない限り、本件係争年間に購入されたのと同量の原料が同年間に加工に供されたと推定できるから、原告の右供述が措信できるとすれば、前記仕入量を基礎として同年中の豆腐及び油揚げの生産量を推定するのが最も妥当な方法と考えられる。然し、原告が前記認定にかかるもの以外の原料を仕入れていたと疑うべき証拠も見あたらない反面、原告の右供述の裏付となるべき証拠もないので、本件において前記仕入量を基礎として豆腐及び油揚げの生産量を推定するのが妥当か、それとも被告主張の推定方法により推計した大豆使用量を計算の基礎とするのが妥当かは、更に被告主張の推定方法を検討した上で決定せねばならない。

被告主張の推定方法は、〈1〉原告が訴外伊藤牧場に売却したおからの量から、おからの年間生産総量を求め、〈2〉これを大豆からおからの生産される比率で除して、大豆の年間総使用量を算出するというのである。そこで右方法の具体的適用を検討する。成立に争のない乙第二号証によると、原告は生産したおからの約七十パーセントを伊藤牧場に売却したことが認められる。

次に証人伊藤文五郎の証言によると、同人は牧場を経営していて、本件係争年間には飼料として原告よりおからを継続的に購入していたが、同人の記憶によると毎日の購入量は少い時で六、七貫、多い時(春秋の彼岸の頃には多かつた)で十二、三貫で、月に二、三日の休みがあり、年間を平均すれば十貫位であつたと思うというのである。右証言によれば年間の購入日数を三百三十日とした被告の推定は妥当であるが、同証人はおからの購入状況を帳簿に作成していたわけではなく、記憶に基く証言である以上一日の平均購入量を確定することは困難であつて、右証言内容よりすれば、実際の平均量が八貫であつたことの可能性も、十一貫であつたことの可能性も、共に否定することができないと云わねばならない。

証人堀田英二は、豆腐及び油揚げ製造の際大豆一升からどれだけのおからができるかは、おからの絞り方が堅いか緩いかによつて違うが、通常五百匁ないし六百匁であると供述し、証人田島正雄は、機械で絞れば四百匁位だが、普通は五百匁ないし六百匁であると供述し、証人古川金三郎の証言によると、絞り方及び製品の質によつて差があるが、自分の店では一釜(大豆二升四合を使用)より五百匁ないし六百匁のおからができるというのである。(証人堀田と同田島の述べる比率がほぼ一致するのに対し、証人古川の供述はこれと著しく相違するので、同証人は一釜と一升を取り違えて供述しているのではないかと疑われる。もしそうだとすれば、前二者の証言とよく一致する。)即ち、一定量の大豆からどれだけのおからができるかは絞り方(水分の寡多)及び出来上つた豆腐等の品質によつて相当程度の差異が生じるので、一般的な比率を確定することは困難であるが、右堀田及び田島の各証言と原告本人尋問の結果を総合すれば、原告の場合においては大豆一升に対するおからは五百匁ないし六百匁と推定するのが妥当であろう。(乙第二号証中この点に関する部分は右各証拠に照らし採用できない。)

今仮りに、原告が本件係争年度に生産したおからの七十パーセントを伊藤牧場に、年間三百三十日に亘り販売したこととし、一日の平均販売量を八貫匁とし、大豆一升からおから六百匁ができるものとして、年間の大豆使用量を逆算すれば六千二百八十六升となり、同じく一日の平均販売量を十一貫匁とし、おからの生産比率を一升に対する五百匁と仮定すれば大豆使用量は一万三百七十一升となり、又各中間値を採用して平均販売量を九貫五百匁、おからの生産比率を五百五十匁として逆算すると、大豆使用量は八千百四十三升となる。

以上の考察によつてわかることは、被告主張の推定方法の根拠となる数値はいずれも証拠上これを一義的に確定することは困難であつて、或程度の巾を持たせて推定せざるを得ず、しかも二重の推定を用いる関係上、右各推定数値より推算される年間大豆使用量の上限と下限には相当の開きがあるということである。そうして、原告主張の仕入量は被告の推計方法による結果と必ずしも矛盾するとは云い切れないことが計算の結果わかるのである。

してみると、被告の主張を検討してみても、原告の前記供述を措信し難いとなす資料は得られなかつたわけであるから、原告が本件係争年度に仕入れた原料は甲第一、二号証及び原告本人尋問の結果に現われた前記の大豆及び豆腐粉であると認定するのが相当であり、従つて本件においては右仕入原料を基礎として豆腐及び油揚げの生産量を推定するのが妥当である。このことは、被告主張の推定方法をそれ自体不適当として排斥する趣旨ではない。右方法はそれなりの合理性を有するものであるから原告が前記認定の仕入原料以外に原料を仕入れているとの事実を疑わしめるに足る証拠が他に存在する場合や、右推定方法による推計の結果によれば右事実を疑わざるを得ないこととなる如き場合には、被告主張の方法によつて豆腐及び油揚げの生産量を推定することもやむを得ないであろう。(この場合には前記各推定数値の中間値を採用することとなろう。)然し、本件の如く原料の仕入額を直接に認定すべき証拠があつて、右証拠を措信し難いとする他の証拠もなく、又被告の推定方法による計算の結果によつても右仕入額を否定し難い場合には、被告主張の如き間接の推定方法を用いるよりは、右仕入原料に関する証拠を採つて、これより直接に生産量を推定する方が妥当だと考えるのである。

証人田島の証言によると大豆六十瓩は容量に換算すれば約四斗五升であることが認められ、成立に争のない甲第二号証と内容の主要部分が一致することと、書面の体裁に徴し真正に成立したものと認める乙第五号証によれば豆腐粉三袋は大豆約四斗三升に相当することが認められる。従つて原告が本件係争年間に仕入れた六十瓩入大豆九十五俵、八十瓩入大豆十一俵及び豆腐粉百四十袋は全部で大豆六千九百四十二升に相当すると推定できる。しかして、証人堀田、古川、田島の各証言を総合すると、仕入大豆のうち平均五パーセント位が加工に適さぬ屑豆であることが認められるので、原告が本件係争年度において加工した原料は大豆に換算すれば全部で六千百九十五升であつたと推定すべきである。

証人堀田の証言により成立を認め得る乙第六号証、証人古川の証言により成立を認め得る乙第七号証、証人田島の証言により成立を認め得る乙第八号証を総合すれば、大豆一升(屑豆を除く)から豆腐九、四丁が生産され、油揚げ八十三枚が生産されるとした被告の推定は妥当なることが認められ、乙第二号証及び原告の署名捺印に争なきことより真正の成立を推定し得る乙第三、四号証によれば、(イ)原告方では仕入大豆の約七割を豆腐の製造に、約三割を油揚げの製造に使用していること、(ロ)豆腐一釜に大豆六升を、油揚げ一釜に大豆三、二升を使用すること、(ハ)豆腐は一釜につき二、三丁の残品及びこわれがあり、油揚げは一釜につき約二十枚のこわれがあることが、いずれも認められる。従つて、原告が本件係争年度において生産した豆腐の総数(但し売れ残りを除く)は四万二千百五丁、油揚げの総数は十五万四千百八十五枚であつたと推定するを相当とする。

(二)  豆腐及び油揚げの売上高について

乙第三号証によれば、(イ)原告の本件係争年度における豆腐及び油揚げの販売方法は約六割が小売、約四割が卸売であつたこと、(ロ)豆腐の小売価格は一丁二十円、卸売価格は一丁十七円であり、(ハ)油揚げの小売価格は一枚五円、卸売価格は一枚四円であつたことが、いずれも認められる。従つて、本件係争年度における豆腐の売上高は七十九万千五百七十四円、油揚げの売上高は七十万九千二百五十一円、合計百五十万八百二十五円であつたと推定される。

(三)  おからの売上高について

原告方においては大豆一升から五百匁ないし六百匁のおからが生産され、そのうちの約七十パーセントを伊藤牧場に売却したことは前記認定のとおりであり、乙第二号証によると、残り約三十パーセントのおからは店頭で販売したが多少の無料サービスもあつたこと、おからの価格は一貫につき十五円であつたことが認められる。従つて、おからの量を大豆一升につき五百五十匁と推定し、店頭売のうち無料サービスの分を五割と推定するのが妥当であり、かくして計算すればおからの売上高は合計四万六千九百四十九円と推定できる。

よつて、本件係争年度における総収入金額は百五十四万七千七百七十四円であつたと推定される。

四、売上原価について

(一)  大豆及び豆腐粉の仕入金額について

甲第一、二号証によると、原告が本件係争年度に仕入れた大豆及び豆腐粉の価格は合計四十八万九千三百五十円であつたことが認められる。

(二)  その他の原料費について

乙第二号証によると、(イ)豆腐一釜についての豆腐及び豆腐粉以外の原料費は燃料四十五円、あわけし十円円、にがり十円、合計六十五円であつたこと、(ロ)油揚げ一釜についてのその他の原料費は油四百五円、燃料八十七円、あわけし五円、にがり五円合計五百二円であつたことが認められる。次に、前記認定の加工大豆の総量と一釜あたりの大豆使用量から算定すれば、原告が本件係争年度において生産した豆腐の釜数は七百八十一釜、油揚げの釜数は六百二十八釜であつたと推定することができる。従つて、豆類以外の原料費総額は、豆腐につき五万七百六十五円、油揚げにつき三十一万五千二百五十六円、合計三十六万六千二十一円であつたと推定するを相当とする。

五、必要経費について

被告主張の必要経費合計十九万六千七百四円については、原告は明らかにこれを争わない(原告主張の年間諸経費には被告主張の必要経費の各項目のうち殆んどのものが除外されているし、右年間諸経費中原告が売上原価として別に計上した分を除いたものの金額は被告主張の必要経費の総金額に比較してはるかに低額である)のみならず、いずれも成立に争のない乙第九ないし第十四号証によれば、被告主張の必要経費はいずれも根拠のあるものであることが認められる。

六、結論(総所得金額について)

そこで、叙上認定の総収入金額より売上原価及び必要経費を控除すれば、原告の本件係争年度における総所得金額は四十九万五千六百円(国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律第五条に従い百円未満切捨て)となる。

してみると、原告の本件係争年度の総所得金額を六十三万四千四百円と決定した本件原更正処分は所得を過大に認定した誤りがあり、この点を看過して原告の審査請求を棄却した本件審査の決定は失当として取消を免れない。

よつて右審査決定の取消を求める原告の請求は理由があるのでこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本重美 大内恒夫 南新吾)

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